音にこだわって臨場感を再現
本日の富塚通信は昨年から定期的にお届けしている動画撮影に
関しての記事となりますが、今回は音(音響)、特に録音に
ついて少しばかりご紹介したいと思います。
映像作品に於いて最も重要なのが画像(映像)であるという点に
ついては論を待たないと思います。しかし、如何に素晴らしい映像で
あっても全くの無音であったり、聞くに堪えない音が流れていた
のでは、その素晴らしい映像の魅力も台無しになってしまいます。
しかし、逆に言えば映像にマッチした音響やリアルなサウンドが
一体となった映像というのは、その魅了が2倍にも3倍にも膨らみます!
例えば劈くような汽笛と共に近づいてくる重く響くドラフト、
更にはSL特有の重量感のある通過音、そして牽引された客車の
レールの刻む音と共に、遠ざかるドラフト。
こういったシーンは映像だけよりも、適切な音声のあるほうが
臨場感が感じられます。
しかし、実際の撮影や映像制作に於いて「音声」の録音や製作は
決して簡単なものではありません。
特にジオラマやレイアウト上での録音の場合、録音機材、マイクの
選択が必要になるケースが意外にあります。

特性の異なる3種類のマイク
上記の3本のマイクは、左から単一指向性ステレオコンデンサーマイクロ
フォン、真ん中が超指向性コンデンサーマイクロフォン、右が単一指向性
ダイナミック型マイクロフォンです。
これらのマイクロフォンの使い分けを少しだけ紹介しましょう。

上の画像は、画像左側から走行してきたキハ181系が、
カメラの前を通過していく際の走行音を録音しています。
ちなみに使用しているマイクは1枚目画像の左端の単一指向性
マイクなのですが、余計な音を入れたくないのでモフモフのウインド
スクリーンを被せてあります。
尚、本マイクはステレオ式なので、左側から徐々に近づいてくる列車の
ジョイント音がマイクに近づくに従って徐々に大きくなっていき、正面
通過時に走行音がピークに!
その後、右側に向かってジョイント音が弱くなっていくというキハ181系
走行の遠近感を録音出来るのがステレオ型マイクロフォンの特徴です。
昨今では、5.1chや7.1chといった音響環境にこだわったホームシアター
環境を構築されたという方も大分増えてきました。
このような機材環境を活用する意味でも、より性能の良い単体の
ステレオ式マイクで録音を行うとダイナミック且つ立体感のある音響を
楽しむことが出来ます。
最近のホームビデオやスマートフォンでは、機種によってCD音質並みの
ステレオ録音が可能なものもありますが、製作室でもテスト録音を
行ってみたところ、やはり単体のステレオマイクを別途使用した方が
明らかに質の高い録音結果が得られました。

超指向性コンデンサーマイクと単一指向性ダイナミックマイク
上の画像はEF15牽引の貨物列車の走行シーンですが、シチュエー
ションとしては、男の子が父親と手をつないで一緒に目の前を
通り過ぎる貨物列車を見送っている…そんな情景的なシーンです。
このシーンの録音では貨物列車の走行音を右のダイナミックマイクで、
踏切の警報音を超指向性マイクを使って別個に録音しています。
まず右側のダイナミックマイクですが、貨物列車の通過音はコンデンサー
マイクで撮ると迫力不足になりがちなので、ダイナミックマイクの方が
音が太いという特性を利用してダイナミックマイクを使用。
ちなみにこのマイクはミュージシャン御用達のSHUREです。
一方の左側の超指向性マイクについては、踏切のところを一般的な
単一指向性マイクで撮ると、警報音があたかも画面全体から鳴っている
ような録音結果となりやすい傾向があります。
そこで超指向性のマイクロフォンの登場です。この手のマイクロは音を
拾う範囲が極めて狭いので、この場合、踏切の警報音をこじんまりと(?)
録音してくれるので、この場合画面のスケール感が際立たせることが
可能になります。
このように、各マイク自体の特性を把握して適宜使い分けを行うことで、
映像のシーンに合った自然な音を録音することが可能になります。

左:ミキサー 右:リバーブレーター
さて、それぞれのマイクで録音したデータは上画像のミキサーと
リバーブレーターに送り、音の加工を行うこともあります。
ここでは録音した音声をイコライジングし、必要に応じてエコー効果を
加えたりします。
しかし昨今では、パソコン上のオーディオツールソフトを使って
当たり前のようにミキシングやイコライジングが出来てしまいます。
また、エコーや反響など様々な効果をも簡単に適用することが可能なので、
これらのミキサーやリバーブレーターを使う必要性が薄れてきたのは
事実です。
只、パソコンソフトも万能ではありませんので、自分が意図した
音響効果を確実に再現する為に、敢えてミキサーやリバーブレーターを
介在させるケースがあります。

昔撮り溜めた実車の音源
さて、上の画像は製作室の長老が若い頃に取り溜めたSLや電気機関車などの
音声データの一部です(ちなみにこのカセットテープの中には、当時の
仲間達からダビングさせて貰ったデータも含まれているとのこと)。
SLが走っていた当時は、無論ビデオカメラなどという機材は普及しておらず、
8mmカメラが主流でした。
そして発売当初、一般に普及した8mmカメラはサイレント方式だったため録音
機能は有しておらず、鉄道愛好家はデンスケを持ってSLや機関車の音を録音
するというのが当たり前という光景になっていました。

テープレコーダーとMDデッキでアナログ音声をデジタル化
実は、今回の映像作品に使用するSLや電気機関車の汽笛などは、全てこの
カセットテープ等から拾っています。
決してこれらのテープすべての録音状態が良いものばかりではないのですが、
極力良いものをピックアップし、アナログ音声をデジタル化しています。
ちなみにアナログ音声をデジタル化するにも色々な方法がありますが、
製作室ではカセットデッキで音声を再生し、それをMDデッキで録音=デジタル化。
再度その音声をパソコン内のソフトで録音する形でデータを取り込んでいますが、
この時、カセットデッキとMDデッキの間にグラフィックイコライザーを経由させる
ことでヒスノイズ除去を同時に行っています。
こうしてデジタル化した音声データは、再度パソコンのオーディオツールソフトを
使ってノイズ除去をはじめ、ミキシングなどの加工処理を行います。
であるならば、グラフィックイコライザーでテープ再生時にヒスノイズの除去を
する必要はないのではないかと思われるかもしれませんが、パソコン上に取り
込まれるデジタルデータは、少しでも音質がクリアな状態で確保されていた方が
後々の作業がより確実に処理できるようになります。
つまりここでは意図的にイコライザーという一手間をかける事で、この後のデジタル
処理を少しでも楽に作業出来るように予め準備しているわけです。
さて、本日はマイクの特性を使い分けた録音から、音響機器を併用した音声データの
デジタル化まで、音(音響)について少しご紹介させて頂きました。
動画を撮る。或いは映像作品を制作する上で、音声はとても重要なファクターなの
ですが、その取扱いや処理の仕方は画像や映像とはまた違った難しさがあります。
今回のブログでは音の加工や処理そのものについては特に触れていませんが、
録音から編集・加工、そして映像の出力に至るまで音響作業は映像作品と切っても
切れない関係にあります。
確かに突き詰めて扱うとなると難しい音声ですが、録音時に専用のマイクを使って
音を撮ってみる。或いは簡易版であってもオーディオソフトで少しだけ音声データを
加工してみる。それだけでも大きな品質向上に繋がるのも音声の特徴だと思います。
ちょっとしたこだわりの如何で映像作品の臨場感やリアリティ向上に直結する音声。
少しばかり目を向け…違いました。耳を傾けてみるとまた面白いかもしれません。
category: ジオラマ撮影