メイクアップシール~E353系あずさ・かいじ~詳報2

本日の富塚通信は、メイクアップシール「E353系あずさ・かいじ」
詳報第2弾をお届けします。
さて、今回はメイクアップシールの車両紹介の前に実車の「E353系
あずさ・かいじ」について触れさせて頂きたいと思います。
本来ならば、こうした内容は前回の詳報第1弾で述べておくべき
でしたが、その点はどうぞご容赦ください。
●ビジネスユーザーと観光客のニーズに応えるために
「E353系あずさ・かいじ」は、主に新宿~松本間を結ぶ「あずさ」と、
新宿~甲府間を走る「かいじ」にて運用されていますが、そもそも
この路線は観光とビジネスという2つのニーズに応えなければ
なりません。
ビジネスニーズとしては、甲府・岡谷そして松本。
信州には日本を代表する精密機器や光学系メーカーの工場が多く
集まっています。以前は東京(新宿)から乗車したビジネスマンの
3分の1くらいが甲府で降りていきました。
一方、観光地としても清里、諏訪、上高地や安曇野など自然を
満喫出来る人気の観光スポットが多くあります。
東京から遠すぎないという立地からも、小さな子供や乳幼児を
連れているファミリー層にも人気があります。
以上のようにビジネス層から観光利用まで需要が多い路線では
あるものの、反面、高速バスとの熾烈な利用客の獲得競争を
余儀なくされている現実もあります。
単純な所要時間では東京~松本間がE353系で3時間弱なのに対して、
高速バスは3時間半と移動時間ではE353系に分があります。
しかし、乗車運賃では一転して高速バスの方に軍配が。
高速バスの場合、高くても3,000円台の料金体系となっており、
ざっくりと計算しても鉄道の半額程の料金で東京から松本まで
行くことが出来るのです。
「あずさ」に投入された列車を振り返ってみれば、「181系」に始まって、
「183系」「グレードアップ183系」「189系」と続き、「E351系スーパー
あずさ」に、E353系へと直接バトンを受け渡した「E257系」と、JRも常に
利用客の満足度を上げるために、速度アップと車内設備の品質向上に
力を注いできた歴史があります。
現在のE353系では速度アップのため、空気ばね式の車体傾斜装置を
搭載する事でカーブ区間でのスピードアップを図っており、設備面では
ビジネスマンが車内でパソコンやスマホで快適に作業出来るよう、
全席にコンセントと大きめなテーブルが導入されました。
また、観光客ニーズに対してはバリアフリー化も念頭に車椅子
対応の大型トイレや専用座席、そして乳幼児の授乳などで活用
できる多目的室などが設けられました。
今回の詳報でお伝えするサロE353グリーン車は、まさにこの
路線のメイン利用者であるビジネスマンと観光層のニーズに
応えるための車両であると言っても過言ではありません。
そうした路線や利用者の背景を覗いてみると、E353系の編成や
列車設備の意図が見えてくるのではないでしょうか。
少々長くなってしまいましたが、以上の内容を踏まえた上で
シール製作を行った「E353系あずさ・かいじ」
ここからはシール詳報に話を移らせて頂きます。
今回は9号車サロE353-3と、モーター車でもある7号車モハE353-2003
の詳報です。この2両も前回の詳報1に続き、基本セット4両に含まれ
ている車両となっています。
それでは先ずは7号車モハE353-2003です。

7号車モハE353(モーター車)
7号車は普通車に当たりますが、模型のモーター車になって
いますので、シールの形状が他の車両とは異なります。


座席部分


客室デッキ仕切り部分
実車では客室内に荷物スペースが設けられていますので、
製作室でも他の号車同様にプラバンで荷物スペースを再現して
みたところ、荷物スペースと客室内の上下のバランスが不自然に
なってしまう為、やむを得ず断念。
本車両ではプラバン加工等の再現はありません。
次に基本セット4両最後の車両、9号車サロE353についてです。

9号車サロE353
グリーン車は前位側から車体の半分が定員30名の客室になっており、
そのデザインコンセプトは「機能性と高揚感、クラス感」
そのコンセプト通り、通路の赤いカーペットや壁面のドアを
始めとして、先ず車内の「赤色」に目を奪われます。
座席は黒字に赤色の細い長方形のラインが無数に配され、
見る角度や位置によって座席が赤っぽく見えたり、黒っぽく
見えたりします。
丁度、車体細帯の「あずさバイオレット」の色味が紫色に見えたり、
青味がかって見えたりするのに似ていますが、こうした特性は
シールの製作側に取っては何とも頭を悩ませるデザインです。


サロ座席
座席のモケットは様々なバリエーションを試した結果、車両ボディを
被せた時の状態で最も映えるように、赤味の強いデザインを採用。
座席背面にはパソコンも置けるテーブルに普通車でも標準装備と
なった電源コンセント、その隣には少し小さめな(?)フットレストも
デザインしました。
可動式のヘッドレフトのカバーは白ではなく、若干淡いトーンの
ピンク色となっているところもポイントです。


客室とデッキとの仕切りドア
入り口のドアはかなり重厚な印象の真っ赤なドアになっています。
他の車両の仕切りドアがガラスを採用してドアの向こう側が見える
ようになっているのとは対照的です。
そして、サロE353の客室と反対側のスペースには順に荷物置場、
多目的室、洗面スペース、業務用室、車椅子対応大型トイレ、男子用
トイレ(模型では未成形)が並び、反対側には車販準備室と乗務員室が
設置されています。


車販準備室・乗務員室側
E353系と同じく高速バスとの顧客獲得競争に置かれた
JR九州の「787系つばめ」


787系つばめ1号車クモロ787
左:4人個室とレセプション 右:トイレと洗面室
「787系つばめ」も車内サービス向上のため多くの設備を
備えていましたが、サロE353のように1両の車両の中に
8つもの設備が備えられた車両のシール化は初めてです。


車椅子対応大型トイレ


車椅子対応大型トイレの内側
これまでシール化した大型トイレの中でも最も大きいトイレ
かもしれません。シールとしては開閉部分の各種ボタン、
内側にはベビーチェアや鏡、車椅子用の手すりをデザイン。
また、ドア乗降口付近にあるAEDは入念に作り込みを行いました。

上:荷物置場、多目的室、洗面スペース、業務用室の壁面
下:荷物置き場 右:洗面スペース部分の拡大シールデータ
大型トイレの先には、車掌室・洗面所・多目的室、荷物置き場に
業務用室などがあります。
ホテルを思わせる壁面は高級感溢れる木目調の壁面をベースに
模型のサイズに合わせた各種設備をしっかり再現!
ちなみにこの壁面シールは車内通路の内側であり、模型にボディを
被せてしまえば、外側からは一切見えない部分にも拘わらず、
奥行き感や立体感まで緻密に再現をしています。
実はこれこそがメイクアップシールの製作上、とても重要なファクターで
あり、制作室特有のデザイン美学でもあります。
見える見えないに拘わらず緻密なシールデザインを行うこと。
このポリシーがシールのクオリティの根幹を支えていると言っても
過言ではありません。このポリシーについては、また次回のブログで
もう少し詳しくご紹介できればと思います。

多目的室・車椅子対応大型トイレ側


多目的スペースの座席、若しくは簡易ベッドも再現可能
体調が悪くなった時や授乳時に利用できる多目的スペース。
メイクアップシールでは付属の木材加工で備え付けの座席と
簡易タイプの折りたたみ式の座席を再現頂けます。
尚、備え付けの座席の背ずり部分を倒すと、折りたたみ式
座席と合わせて簡易ベッドにする事も出来ます。
メイクアップシールでも実車に則って、背ずり部分のパーツの
接着位置を変える事で簡易ベッドを作る事も可能にしました。
さて、始めにもご紹介しましたが、サロE353の乗車定員は
30人ばかりと、決して輸送力の向上自体に主眼を置いた車両で
ない事は容易に想像が付きます。
では、サロE353の連結されている意味はどこにあるのかと
言えば、これまで触れてきました、車椅子用の大型トイレ、
そして体調不良や授乳時の多目的スペースといった設備に
その答えの一端があるように思えてなりません。
小さな子供を育てている母親、車椅子の方用のバリアフリー、
そしてAEDから高齢者の方といった、まさに日本社会の
多様化を意識し、それらの要望に応える為の具体的な答えで
あるという気がして来るのです。
他の普通車11両全てが南アルプスと梓川の清らかさをイメージ
したブルー基調の落ち着いたインテリアデザインなのに対して、
サロE353のみ赤と黒というダイナミック且つ力強いインテリア
デザインとなっています。
そのデザインには「機能性と高揚感、クラス感」を超えた
メッセージ性が隠されているのかもしれません。
サロE353はシール製作を通して、そんな事まで考えさせられる
車両でもありました。
さて、今回で基本4両セットにパッケージされている4両すべてに
ついて詳報をお届けしたことになります。
現在、メイクアップシールの方は各パッケージのマニュアル
製作を行っています。
次回の詳報第3弾では増結セットの普通車モハE353・モハE352に
ついてご紹介していきたいと思いますので、どうぞお楽しみに。
category: E353系